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東京高等裁判所 平成元年(ネ)2295号 判決 1990年7月24日

第二二八二号控訴人、第二二九五号被控訴人(以下「一審原告」という。) 井上ユリ

右訴訟代理人弁護士 古川景一

第二二八二号被控訴人、第二二九五号控訴人(以下「一審被告」という。) 株式会社講談社

右代表者代表取締役 服部敏幸

右訴訟代理人弁護士 伊達秋雄

的場徹

金住則行

加藤朔郎

主文

本件各控訴をいずれも棄却する。

控訴費用中、一審原告の控訴に係る分は一審原告の、一審被告の控訴に係る分は一審被告の各負担とする。

事実

(申立て)

一審原告代理人は、「一 原判決中一審原告敗訴部分を取り消す。二 一審被告は、朝日新聞、読売新聞及び毎日新聞の各全国版朝刊第一面出版規格縦三段横六分の一のスペース一枠に原判決別紙第一目録記載の版下原稿による広告を各一回掲載せよ。三 一審被告は、原判決別紙第五目録記載の各図書館に対し、同第二目録記載の文書及び同第四目録記載の版下原稿による文言を記載した付箋を各一回送付せよ。四 一審被告は、その発行に係る雑誌「フライデー」の表紙裏面全面に原判決別紙第三目録記載の版下原稿による文書を一回掲載し、付箋送付の申出をした者に対し、前記付箋を送付せよ。五 一審被告は、一審原告に対し、金一九〇万円及びこれに対する昭和六一年一〇月三〇日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。六 一審被告の控訴を棄却する。七 訴訟費用は、第一、二審とも一審被告の負担とする。」との判決及び第二項ないし第五項につき仮執行宣言を求め、一審被告代理人らは、「一 原判決中一審被告敗訴部分を取り消す。二 一審原告の請求を棄却する。三 一審原告の控訴を棄却する。四 訴訟費用は、第一、二審とも一審原告の負担とする。」との判決を求めた。

(主張)

当事者双方の主張は、次のとおり付加、訂正するほか、原判決事実摘示のとおりであるから、これを引用する。

1  原判決三枚目表一〇行目の「徳美」を「達美」と、同裏五行目の「編集人」を「編集者」と、同四枚目表七行目の「うえ」を「上」とそれぞれ改め、同一行目の末尾に「そしてその妨害排除及び予防の方法の決定については、肖像権侵害行為の態様・違法性の程度、侵害行為者の動機・目的、将来にわたる侵害の危険性及び侵害者の侵害行為により受ける経済的利益との均衡の諸要素が考慮されるべきであり、一審被告の侵害行為における右各要素に該当する事情からすると、次のとおりの方法を講ずるのが相当である。」を加える。

2  同八枚目裏八行目から九行目にかけての「社会的影響力、文化的発言力」を社会的・文化的影響力」と改める。

(証拠関係)《省略》

理由

一  当裁判所も、一審原告の本訴請求は、原判決が認容した限度において理由があるものと判断する。その理由は、次のとおり付加、訂正するほか、原判決理由説示のとおりであるから、これを引用する。

1  原判決一三枚目裏六行目の「第七、二〇号証」を「第七号証、第一三号証(乙第一四号証と同一)、第二〇号証」と、八行目の「甲第二九号証、乙第一四、一五号証」を「甲第二九号証(乙第一五号証と同一)」とそれぞれ改め、一〇行目の「総合すれば」の次に「、」を加え、同一四枚目表八行目の「取材」から「できなかったが」までを「取材や写真撮影を避けたいために日中も雨戸等を閉じ、自宅から外出することもできず、蟄居状態を余儀なくされたが」と改め、同裏九行目の「午後五時」の前に「同日」を加え、同一六枚目裏二行目の「架電した」を「電話をした」と、同一七枚目表六行目の「あるが」を「あり、写真はそれ程鮮明なものではなく、一審原告をよく知った者以外の者には、これによって一審原告を識別することは困難な態のものであるが」と、九行目の「詳細な事実」を「別紙記事文記載のとおりの事実」と、同裏七行目の「形」を「状態」とそれぞれ改める。

2  同一九枚目表四行目の「存在は」を「発生の原因としては種々多様なものがあるから、そのような社会現象が隨伴することは、当該事実が」と改め、一〇行目の「被告は、」の次に「写真の撮影とその写真の掲載とは別個に評価すべきであること、本件写真とこれについての前示記事文とは一体のものとして判断すべきであること、そして」を加え、同裏一行目の「しかし」を、「たしかに、写真撮影とその写真の掲載とは別個の行為として評価すべきであるから、一般的にいって写真撮影行為の違法が直ちにその写真の掲載の違法に結び付くものではないところ、本件写真に付せられた説明記事は、それ自体無難なものということができる。しかし、撮影自体と共に撮影された写真の掲載も被撮影者の意思に委ねられるべき肖像写真の場合には、掲載された写真そのものやそれに付された説明が客観的に妥当なものであるとしても、それが違法に撮影された写真である以上、その掲載行為も違法であるといわなければならない。すなわち、」と、三行目の「公表」から「機会」までを「公表されており、また本件写真の公表後一審原告がその承諾の下に鮮明な自己の容姿写真を公表させたことがあるからといって、それとは別個の機会」と、四行目から五行目にかけての「いずれも」から同行の末尾までを「右各事情は、違法性の程度の評価、したがってこれに伴う一審被告の責任の程度・態様に影響するということはできても、いずれも違法性阻却事由に当たるものということはできない。」とそれぞれ改める。

3  同二一枚目表五行目から同二二枚目表六行目の「いわなければならず」までを「しかしながら、他方前示のように本件写真自体鮮明なものではなく、それと一体をなす説明記事も、一審原告自身にとって不快な点がないではないとしても、一般的・客観的にはその掲載による効用そのものを排除・減殺するための措置を講じなければ被撮影者・被掲載者の精神的苦痛を除去することができないとまで評価するには足りないとみるのが相当である。その上、本件フライデーのような週刊誌は、その性格上一般読者によりその一時的興味の対象として受け取られるにすぎず、読後長期間保存することは多くはなく、その文献的価値も高いものではなく、後に資料として利用される可能性は極めて少ないものと推測される。そして肖像権は、その対象たる肖像について、物権と同様な包括的かつ完全な支配を包含する程成熟した権利ということはできない。以上を総合判断すると、本件においては、肖像権に基づく妨害排除ないし予防請求権は発生しないものといわざるをえず」と改める。

二  以上の次第であるから、原判決は相当であり、一審原告及び一審被告の各控訴はいずれも理由がないからこれを棄却し、訴訟費用の負担につき、民事訴訟法九五条、八九条を適用し、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 丹野達 裁判官 加茂紀久男 新城雅夫)

<以下省略>

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